「グレン」はスコッチだけのもの?ドイツの蒸溜所をスコッチウイスキー協会(SWA)が提訴

「グレン」と聞いたら、なんのウイスキーを思い浮かべますか?
グレンフィディック?グレンリベット?グレンモーレンジィ?それともグレンファークラスでしょうか?

日本にいると、思い浮かぶ「グレン」がつくウイスキーはスコッチウイスキーと想像する人が大多数でしょう。
しかし、実は世界にはグレンと名前がつくウイスキーがスコッチウイスキー以外にも存在します。

そんな中、スコッチウイスキーの業界団体スコッチウイスキー協会(SWA)が、ドイツの蒸溜所であるヴァルトホルン蒸溜所(Waldhornbrennerei)を提訴。
訴訟内容は、ヴァルトホルン蒸溜所が生産するシングルモルトウイスキー「グレン・ブーヘンバッハ(Glen Buchenbach)」のグレンの使用停止を求めるものでした。

ドイツのヴァルトホルン蒸溜所はこの訴えに反発し、真っ向から戦いを挑んでいます。

そもそもグレンって何?

スコットランドの谷


グレンはゲール語で「谷」や「狭谷」という地名を表している表現で、一般用語といっても差支えありません。
ゲール語は、アイルランドやスコットランドで使われる古い言語で、現在でも6万人近い話者がいると言われています。
しかし英語にとって代わられ、年々話者が減少してきています。
注) 近年では、若者を中心にゲール語を話せる人が増えており、スコットランド政府も後世に残すために学校を増やしている、という情報をいただきました。(追記:HIDEOUT CLUB編集部)

アイルランドやスコットランドから多くの移民が移り住んでいる地域、例えばカナダやアメリカ、ニュージーランドなどでも、ゲール語をルーツとする地名が存在し「グレン〜」という土地もあるため、スコットランド特有の単語ではありません。

スコッチウイスキー名には何故、グレンが多いの?

グレンリベット蒸溜所


スコットランドには、谷や山が非常に多く、そのそばに蒸溜所が建てられていることから、ウイスキー名にグレンを冠したブランドが多い一因ともなっています。

例えば「グレンフィディック」は”鹿の谷”、「グレンリベット」は”静かな谷”をゲール語で表しています。

つまり、スコットランドの元々の言語であるゲール語で、蒸溜所近くのスコットランドの自然を表現すると、「グレン〜」となりやすかったため、グレンが多いと考えられます。

訴訟の論点は?


「グレン」という言葉が、消費者に「スコッチウイスキー」を想起させるかどうかが重要なポイントです。
これまで解説してきた通り、「グレン」という言葉自体は固有名称ではないため、使用禁止とすることは少し無理がありますが、仮に一般消費者にとって「グレンと名の付くウイスキーは当然スコッチウイスキーである」という認識が多いのであれば、ドイツのヴァルトホルン蒸溜所は苦しい立場になります。

しかし、消費者の認識がどうであるか、を考えるのは、結局は裁判所です。

ドイツのハンブルク地方裁判所は、カナダ、アイルランドのウイスキーも「グレン」と名付けたウイスキーがあり、必ずしもスコットランド特有の呼称ではないことを指摘しています。
また、ドイツのヴァルトホルン蒸溜所は、ドイツで「グレン・ブーヘンバッハ(Glen Buchenbach)」の商標を取得しています。

ハンブルグ地方裁判所は、欧州司法裁判所の判断を求めており、
欧州司法裁判所はハンブルグ地方裁判所に、一般消費者の「グレン」に対する認識を調査するよう求めています。

この争いの行方


スコッチウイスキー協会は、スコットランドのウイスキー産業の業界団体であり大きな力を有しています。
訴訟が長引けば長引くほど、蒸溜所にとっては訴訟費用が大きな負担になりますが、スコッチウイスキー協会は最後の判決まで告訴すると主張しています。

一方でスコッチウイスキー協会は、2009年にカナダのグラノラ蒸溜所(Glenora Distillery)が生産している「グレンブレトン(Glen Breton)」というウイスキーに対しても訴訟を起こしていますが、最終的にカナダのグレンブレトン側が勝訴し、「グレンブレトン バトル・オブ・グレン」という勝利記念のウイスキーもリリースされています。

欧州司法裁判所は、今週中に判断を下すようですが、まだ続報は出ておりません。要注目です。

20180224追記:判決が出ました。ドイツのヴァルトホルン蒸溜所は引き続きグレンを利用可能になりました。

関連サイト

スコッチウイスキー協会
ヴァルトホルン蒸溜所