居酒屋やロックバーのガヤガヤ、スポーツバーやダーツバーの歓声とも違う、異質な雰囲気を持つ場所。正直言って、興味はあるけれど、ちょっと入りにくい。
オーセンティックバーにそんなイメージを持っている方も多いのではないだろうか。
今回は、そんなバー初心者のための、バーの楽しみ方や素朴な疑問に答える記事だ。
はじめに、オーセンティックなバーに行く目的を考えてみたい。
お酒に詳しくなるため。バーにいる見知らぬ人々と世間話をするため。一人で浸るため。誰かとくつろぐため。(それが仕事の付き合いだという場合もあるが。)
結構様々なケースがある。
けれど、それは別に普通の居酒屋でもできることだ。では、あえてバーに行く意味とはなんなのか。
例えば、カフェで考えてみよう。
人の往来の激しいチェーンのカフェでも、静かなジャズの流れる喫茶店でも、
一人で読書している人もいれば、友人との会話に花を咲かせる人もいる。
仕事の打ち合わせに使う人もいれば、コーヒーを味わいに来ている人もいる。みんな様々だ。
ただ、飲み物と場所だけを考えるなら、安い値段で長く滞在することもできるチェーン店も魅力だ。
それでも、その店が持つ世界観−おしゃれな雰囲気、美味しいコーヒー、丁寧なスタッフ−
を重視するなら、自然と高い店に行くのではなかろうか。あなたがオーセンティックなバーを選ぶ理由なんて、それと同じで構わないのだ。
個人としての意気込みとしては以上のようなもので構わないのだが、逆にお店の人は僕らに何を求めているのだろうか。
そんなホンネを探るべく、今回は池袋の西口に佇むBAR CROSSでマスターの井手尾氏に話を伺った。
(ちなみにBAR CROSSは、ウイスキーアプリ『HIDEOUT CLUB』でも情報配信中だ。)
まずは実際に、お店に入ってから、メニューを頼むまでをシュミレーションしてみよう。
バーの目の前に立ったものの、そのドアを開けることが何よりも難しいことの一つなのではないだろうか。一つ深呼吸をして、襟元を正して、堂々とした振る舞いでそのドアを開けよう。
BAR CROSSの場合は、ドアを開けた瞬間にスタッフの方と目が合う。場所によって差異はあるが、基本的にはバーのスタッフが迎えてくれるので、こちらの人数を告げ、案内されるのを待とう。
たいていスタッフが席を指定してくれるが、空席が多ければ、好きな席をどうぞと言われる場合もある。そんな時は自分がピンと来た席に座ればいいのだが、もし一人で来た際に迷った場合はカウンターの隅を狙おう。お店の雰囲気全体を観察できるし、自分一人の世界にも浸りやすい。
席についておしぼりをもらったら、不慣れなうちは「メニューはありますか」と言おう。メニューを見ればそのお店の値段設定が分かるし、どんなお酒が頼めるかハッキリと分かりやすいからだ。
場所によってはメニューが置いてない場合もある。そういう場合は、どんなお酒が飲みたいか、(カクテルであれば具体的に、度数の高さや味の好みなど)を伝えてみよう。バーテンダーの方がきっとあなたに合ったカクテルを勧めてくれる。
ドリンクが来るまでの間は、お店自体のインテリアやグラスなどに目を向けてみるのもいいし、別にスマホをいじっていてもいい。もしカクテルを頼んだのであれば、バーテンダーの華麗なる手さばきを眺めてみるのもいいかもしれない。
ドリンクが来たら、あとは自分の好きなようにその場を楽しもう。ドリンクが来るまでと同様に過ごしていてもいいし、スタッフの方の手が空いていそうであれば、自分から話しかけてもいい。くれぐれも、忙しそうな繁盛時に呼び止めるような無粋な真似だけは避けるように。
BAR CROSSでは初めて来る方へのカクテルのオススメとして、ジントニックを挙げている。
「バーでのジントニックは居酒屋さんとのジントニックとは全く違う味わいなので、本格的なジントニックを飲んだことがなければ、まず最初にオススメしますね。うちは比較的軽めなテイストのプリマス・ジンと、フィーバーツリーというトニックウォーターでジントニックを作るのでとても優しい味わいのものとなっています。」
ジンとライムの香りがふわりと香りながら、飲み口はしっかりと甘いBAR CROSSのジントニック。居酒屋のジントニックと比較しようものならば、もはや別のカクテルではないかと錯覚するほどだ。
ジントニックは、至極シンプルなカクテルである。しかし、どんなジンやトニックウォーターを使うのか。その比率をどうするか。ライムやレモンなどの副材料をどう使うか。こだわり抜けばキリがない。だからこそ、バーごとにその味わいが違ってくるのだという。色々な場所でジントニックを頼んでみる。これをバーに行くことの一つの楽しみにしてもいいかもしれない。
カクテルだけでなく、ウイスキーの品揃えにも力を入れているBAR CROSS。
ウイスキーであれば、初心者の方にはこんな具合に勧めるのだとか。
「基本的にはいくつか並べてオススメするスタイルを取ってます。その中で、どんな飲み方をしても美味しいザ・グレンリベット12年が初めての方にはいいんじゃないでしょうか。個性の強いものが好きそうであればラフロイグ10年。ウイスキーに対する固定観念を変えたいならば、初めからオールドプルトニー21年のように多少価格が高くても、長期間の熟成を経たウイスキーをオススメしますね。」
華やかで洋梨のような香りがするザ・グレンリベット、正露丸のような香りが曲者のラフロイグ、ドライフルーツの香りとトロリとした飲み心地がたまらないオールドプルトニー。
それぞれ違う個性が光っているが、ウイスキー初心者であれば、どれを飲んでもきっと驚かされる体験をすることだろう。ある程度飲み慣れた方でも、なるほど、いいチョイスだと納得するラインナップである。
また、ウイスキーは熟成の年数が長くなるにつれ、値段も高くなる。そんな時は、ハーフで頼む。という手段を取るのがいい。中にはハーフでの提供をしていない店もあるが、聞かぬ恥はなんとやら。熟成年数の長いウイスキーに挑戦したいのならば勇気を出して聞いてみる方が賢明だろう。
さてここからは、マスターの井手尾氏から聞いた、普段はあまり聞けないバーに対しての率直な質問を書こうと思う。あなたのバーに対しての敷居を低くできれば幸いである。
・来店人数はどのくらいまでOKなのだろうか?
「基本的には2−3人でしょうね。テーブル席が多い店であれば別ですが、カウンターに並んで話すとなると、3人までが限界だと思います。」
・振る舞いとしてのタブーはあるのだろうか?
「横にみだりに話しかけない、ということでしょうか。バーは距離感を大事にする場だと考えているので、横に女性や有名な方がいるからといってむやみに話しかけることはして欲しくないですね。たとえ顔見知りであっても、コンディションやシチュエーションは日々異なりますから、状況を見て声をかけていただきたいですね。」
機会があれば話に交ざり、あまり深くは掘り下げない。バーに足を運ぶことで、本当の意味で大人な対応をして、その上でどう楽しむか、ということを考えるいいきっかけになるかもしれない。
また、バーに行く際に悩みがちなドレスコードについては、井手尾氏はあまり気にしないという。
「最近の夏はかなり暑いですから、Tシャツ短パンでうちに来る人もたくさんいます。もちろん店によってはそういう服装面を気にするバーもあるとは思うのですが、うちは置いている酒は良いもの、珍しい物を。それ以外はカジュアルに。という信条なので、個人的には気にならないですね。服装よりは振舞に気を付けた方がバーテンダーから好まれるのではないでしょうか。」
実際、夏のドレスコードは難しい。ここは初見で分かる部分ではないので、筆者としては、最初は襟付きのシャツを着て足を運び、周りのお客さんを見てラフな格好でも大丈夫だと判断できたら、次からは少し外す、といった感じで徐々に緩めていくのが手堅いように思う。
・一見さんにとって入りやすいバーとは?
「路面にあって中が見える、ちょっと賑やかでオープンなバーの方が入りやすいでしょう。でも、それではバーの楽しさは見えづらいので、敢えて入りにくそうなバーに勇気を出して入ることの方が大切なのでは、と考えています。オーセンティックで静かな雰囲気で、酒と自分とが向き合うような空間はやっぱりちょっと入りにくい。でも入ってしまえばそれ程身構える必要がないことも多いので、扉を開ける勇気、それが大切なのではないでしょうか。」
自分のイメージと合わなければ、一杯で帰ることも失礼ではない、と付け加える井手尾さん。取っつきやすいバーに入れば、やはりそれ相応の雰囲気しか味わえない。行かず仕舞いよりも、行って自分がどう感じたか、その感覚を大切にする必要があるのかもしれない。
・お酒に全く詳しくない人がバーでお酒を飲みに来た時、どのような頼み方をすればいいのか?
「そのようにお酒に詳しくなくてもバーに足を運んでくれるお客様は、何かバーに対しての思い入れがあって来てくれているのだと思うので、ドラマのシーンのイメージや、ウイスキーをロックで飲みたい、という憧れでも構わないので、何か自分の中に抱いてるイメージを言っていただけると、こちらも出しやすいですね。」
確かに、お酒に詳しくなくても、お酒に対してのイメージは人それぞれある。そんな初心者でもお酒を楽しめるように、コンシェルジュのように、はたまた探偵のように、その人に合ったお酒を探すべく、常にバーカウンター越しに寄り添ってくれる存在。それこそがバーテンダーなのだろう。
・そもそもチャージ料とはなんなのだろうか?
「バーのチャージは、基本的には遊園地の入園料と同じだと考えています。居酒屋のお通しとは違って、そのバーの持っている世界観や、雰囲気、グラスの美しさのような、家では到底味わえないような体験。それを得るためのエントリーフィーなのでは無いでしょうか。やはりそのようにチャージを取るバーは、雰囲気づくりのために細部にまでこだわり抜いているお店が多いと思います。」
BAR CROSSでは、1、2杯でも気軽に飲んで帰れるように、敢えてチャージを取らないのだという。カクテルの作り方同様、店作りの部分にも、そのバーごとの多様な考え方、答えの形がある。
ここまで、取材に付き合ってくれたBAR CROSSに興味を抱いた人もいるのではなかろうか。井手尾氏がお店に力を入れている部分について、伺ってみた。
「普通じゃない、新しい発見をしてもらいたいお店。だからこそ、マニアックなウイスキーをメインに置いているバックバーを見てもらいたいですね。普段飲んでいるものでも、それこそ、お湯割りみたいな飲み方でも構わないのでいつもと変化をつけてみたり、手を出していない種類のお酒に挑戦してみる。そんな風に普段とは違うお酒の楽しみ方をしたいと思ってくださる場でありたいです。あとは、オーセンティックな雰囲気かと思いきや、入ってみると意外とカジュアルでフレンドリーである、そのギャップみたいなものを楽しんでもらえれば嬉しいですね。」
締める部分は締め、緩める部分は緩める。そして、普段とはちょっと違う体験を。
BAR CROSSでは初心者の方には、バーという日常とは違う空間を楽しんでもらい、慣れ親しんでいる方には新たな挑戦を用意している。
井手尾氏のトークも抜群なので、池袋に用事がある際は、ぜひ立ち寄ってみてはいかがだろうか。
ところで、ウイスキーメディアHIDEOUT CLUB MAGAZINEとして気になるのは、BAR CROSSの中で今イチオシのウイスキーボトルが何か、ということ。井手尾氏が選んだのはこの2本だ(2017年3月現在の情報)。
初心者の方には「グレンモーレンジィ ネクタードール」。ソーテルヌ樽という珍しい樽で寝かせたグレンモーレンジィ。お菓子のような甘さが口の中に広がる、甘口のウイスキーだ。
中・上級者の方には、「ハイランドパーク19年の信濃屋オリジナルボトル」がオススメだという。
開けたての堅い感じから、甘さと塩気が絶妙に開いてきた頃だという飲み時のボトル。無くならないうちに足を運んでみてはいかがだろう。
またBAR CROSSでは、ザ・スコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティというボトラーズのウイスキーも多く取り揃えている。ラベルには数字しか記載が無く見た目であまり区別がつけられないが、中に入っているウイスキーはそれぞれ様々な銘柄のものがあるという、見た目にインパクトがあるブランド。バックバーの上部に並ぶそれらのボトルは、初心者の方も必見だ。
バー初心者としては、バー=カクテルというイメージもあるかもしれないが、実はウイスキーに力を入れているバーも多い。
もしバーでウイスキーを頼み興味を持ったならば、HIDEOUT CLUBのアプリをダウンロードしてみてはいかがだろうか。
ウイスキーファンたちのウイスキーコメントが覗ける他、ウイスキーに力を入れているバーの情報を見ることもできる。ウイスキーをますます楽しむことができるアプリなので、ぜひチェックしてみてほしい。
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BAR CROSS
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TEL:03-6914-0278
営業時間:18:00~02:00
定休日:毎週日曜
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